原状回復について
今回の民法改正では、入居者が退去した後の『原状回復』について、次のように明文化されました。
【改正民法第621条】賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用および収益によって生じた賃借物の損耗ならびに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、その限りでない。
つまり、通常損耗や経年変化(例:壁クロスの日焼け)は大家さん負担、通常損耗を超える損耗(例:煙草のヤニ汚れ)は入居者負担となります。(例外として、天災で窓ガラスが割れた場合などは大家さん負担です。)
通常損耗補修特約とは
ただし『通常損耗補修特約』を契約書に記載すれば、通常の損耗でも入居者に負担させることが可能となります。その場合、次の3点が必要です。一例を挙げてみます。
①範囲の特定:(ⅰ)ハウスクリーニング(ⅱ)壁・天井クロスの貼り替え(ⅲ)畳の表替え、については、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる損耗(通常損耗)についても、賃借人が全額を負担する。
②金額の明示:(ⅰ)ハウスクリーニング代:20,000円(ⅱ)クロス貼り替え代:1㎡当たり1,000円(ⅲ)畳の表替え費用:1枚4,500円
③金額の相当性:賃料の3ヶ月分が上限の目安となります。(賃料4万円の場合、12万円が上限です。)
一部滅失による賃料減額
夏の暑い日に、エアコンが故障することがあります。今までですと、大家さんは入居者から連絡がなければ知る由もないので、暑いままほったらかしの場合があったかと思います。しかし民法改正後は、エアコンが壊れ入居者が汗ダラダラの生活を強いられた場合、アパートの賃料を割合に応じて【当然に】減額しなければならなくなりました。ただ、エアコン修理を頼んで業者さんがすぐに対応できない可能性がありますので、減額するまでの免責日数を記載すれば、その日数分は減額しなくてもよいので、オーナー様も安心です。
状況 | 賃料減額割合(月額) | 免責日数 |
トイレが使えない | 30% | 1日 |
風呂が使えない | 10% | 3日 |
水が出ない | 30% | 2日 |
エアコンが動かない | 5,000円 | 3日 |
電気が使えない | 30% | 2日 |
TV等通信設備が使えない |
10% | 3日 |
ガスが使えない |
10% | 3日 |
雨漏りによる利用制限 |
5%~50%(カビ結露発生は50%) | 7日 |
こちらは「貸室設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」(日本賃貸住宅管理協会)となります。
上記の場合、エアコン修理の免責日数は3日ですので、壊れて3日間は賃料を減額する必要はありません。壊れて4日目以降は、お家賃から5,000円を引かねばなりません。(もっともエアコンが壊れるのは夏場が多いので、設置して10年経ったら新品と交換すべきです。)
また、入居者が部屋の不具合を大家さんにお願いしたのに長い間ほったらかしにされた場合、入居者が自分で修繕することが可能となりました。(後日、請求書が大家さんに送られてきます。)民法改正で明文化されたのですが、ここぞとばかり入居者が部屋を好き勝手に改装してしまう恐れがありますので、アパートの掲示板等で大規模修繕をしないよう注意喚起をしておくと安心ですね。
以上、賃貸借での民法改正の注意点となります。4月以降に新規の契約があった時は、オーナー様ご自身で賃貸借契約書を確認しておきたいところです。